イタリア北部の中央付近、ヴェネト州のヴェローナから50キロ程度、イタリア三大ワインのひとつ「アマローネ(Amarone)」を生みだすヴァルポリチェッラ(Valpolicella)。
ブドウの木が規則正しく整列して根を張るなだらかで高さのない丘がつづくヴァルポリチェッラには、世界的に超有名なカンティーナ「マージ(MASI)」を台頭に、家族経営の小規模なものをふくめて数多くのカンティーナがひしめきあっている状態。ヴァルポリチェッラだけで、まる一日カンティーナ巡りについやしても足りないぐらい。
とはいっても、少しずつでもテイスティングしていると、確実によっぱらってくるので、意識がはっきりしているうちに買いたいワインに出会うためには、やっぱり「目星付け」が大切。
私の場合は、イタリアがちょうど飛び石連休の時期だったので、2日前から観光がてらヴェローナに滞在して、食事やアペリティーボなど、機会があるたびにヴァルポリチェッラのワインをセレクトして、はっきりした意識の中でゆったり味わいながら、カンティーナ巡りの下準備ができました♪
はるばるジェノバからヴェネトまでやってきたお目当ては、もちろん「アマローネ」だったのですが、食べたり飲んだりの楽しい「下準備」のおかげで、同じ地域、同じ種類のブドウ、同じ製法で作っているにもかかわらず、製造者によってかなり特徴に差があることがわかり、正直「どのアマローネでもおいしい」わけではないことを学習。あたりまえですが「高級=おいしい」ではありません!
MASI(マージ)社の功績もあり、ヴァルポリチェッラは今や世界中で認知され、なんとヴァルポリチェッラで生産されるワインの80%がアメリカなどの外国に輸出されているそうです。おかげでヴァルポリチェッラを訪れる観光客もアメリカ人、ドイツ人が圧倒的に多く、それを意識したかのようにイタリアにしてはキレイに整備された道、丁寧な標識、カンティーナでは洗練された試飲サービスがあり、もちろん英語も通じやすいので、几帳面な日本人でも心地よくすごせると思います。
ということで、自分好みのアマローネに出会うために、実際に飲んでおいしかったワインのラベル、レストラン推薦などでざっくりと優先順位をつけておくのはほんとうにおススメ。
さて、下準備が終わったら、カンティーナ巡りスタートです!
アマローネ(Amarone)はなぜ高い?
「アマーロ」はイタリア語で「苦い」という意味で、「アマローネ」は「苦みのあるワイン」という意味をふくみます。実際は「苦い」というか、ちょっとこげたような木樽の匂いがあるせいで、独特な大人っぽい味がします。
そんなアマローネは、ヴァルポリチェッラのレストランで最低でも50ユーロ、「おいしいアマローネ」を飲みたいなら100ユーロから、ともいわれています。イタリアのレストランでは、20~30ユーロのワインが平均的な価格帯なので、アマローネは強気の価格設定、かなり高級なワインということになります。
なぜ、こんなに高いのか、という理由はこの独特の風味を生みだす製法にあります。
- 収穫したブドウを55~60%の重量になるまで室内で3~6カ月乾燥させる
- 干しブドウを細かく砕いてから、温度管理したステンレスの樽で20~60日間発酵させる
- 発酵させた液体を固形物を木の樽に移し、24~36カ月発酵させる
- 圧搾後、さらに瓶につめてから6~12カ月熟成する
これがざっくりですが、アマローネの製法の特徴。
ブドウ選別→乾燥(3~6カ月)→破砕、発酵(20~60日間)→木樽熟成(24~36カ月)→瓶熟成(12カ月)、ということは、ブドウを収穫してからアマローネになるまで最低でも34カ月。
期間の数値に大きな幅がありますが、これこそ「カンティーナによって、全然アマローネの味がちがう」理由のひとつ。
それぞれのカンティーナが誇りをもってオリジナルの味にこだわり、なが~い時間と手間暇をかけていることを思うと、アマローネの高く設定された価格にも納得してきます。
個人的にはアマローネよりも好き、アマローネを上回る何かがあるリパッソ(Ripasso)
アマローネの元になるブドウは主に「コルヴィーナ」をメインとした3種類~5種類の組み合わせなのですが、ヴァルポリチェッラには、アマローネ以外にも同じ品種のブドウから製造されるシンプルなワイン「クラシコ DOC」、ヴァルポリチェッラ独特で伝統的な製法のワイン「リパッソ」があります。
クラシコ(Classico) | リパッソ(Ripasso) | アマローネ(Amarone) | |
---|---|---|---|
度数 | 12~13% | 13.5~15% | 15~16.5% |
ブドウの収穫 | 10月 | 10月 | 9月下旬 |
樽熟成期間 | 10~12カ月 | 16~18カ月 | 24~36カ月 |
瓶熟成期間 | 1~2カ月 | 4~6カ月 | 6~12カ月 |
価格 | リーズナブル | 中 | 高 |
特徴 | 収穫したブドウを圧搾し、ステンレス樽で発酵 | アマローネ製造過程で圧搾後の搾りかすが残った木樽を使用 | 陰干ししたブドウを使用。木樽で24カ月以上じっくり発酵 |
「リパッソ」とは、クラシコとアマローネのいいとこどりをしたような欲張りなワイン。ざっと製法を紹介すると・・・
- 収穫したブドウを細かく砕いてから、温度管理したステンレスの樽で10~12日間発酵させる
- 圧搾し、液体のみステンレスの樽で3~6カ月発酵させる(ここまで、クラシコと同じ)
- アマローネを圧搾した搾りかすの残った木の樽に移し、さらに18カ月発酵する
- さらに瓶につめてから6カ月熟成する
ヴァルポリチェッラに伝統的につたわるリパッソ製法は、もともと「スタンダードなクラシコにアマローネの原料をリサイクルして深みを出そう」という試みだったのかもしれませんが、ヴァルポリチェッラのリパッソに関しては、ちょっとものたりなく感じることもあるクラシコでもなく、個性的でしっかりとした主張をしてくるアマローネでもなく、とても女性らしくエレガントで奥深く、独立した1種類のワインとして確立されています。
超有名ワインのアマローネと比較すると認知度は低めですが、最近は人気が出てきて、どのカンティーナもリパッソの生産量を増やしているようです。ワイン好きの友だちの中で「アマローネもいいけど、実はリパッソの方が好き」という人もいて、私だけの意見ではないようです。
エレガントでフルーティーな香りにまずうっとり、香りに刺激されて口の中が唾液で満ちるのを感じます。まろやかで奥深いテイストは、ワインをメインに楽しむアペリティーボにも、食事時のどんな種類の料理にもしっくりなじんで、私はヴァルポリチェッラのリパッソが大好きになって帰ってきました♪
ちなみに、天候やさまざまな条件によって毎年とれるブドウの量、品質は異なります。それぞれのカンティーナはブドウの収穫量や品質、マーケットの需要を見て、その年、どれだけのブドウをアマローネの製造に費やし、どれだけをリパッソ、クラシコにまわすのかを考える必要があります。それぞれのカンティーナ自身で品質と市場をコントロールすることで、ヴァルポリチェッラのワインの価値と品質は高く保たれているのです。
ヴァルポリチェッラのおすすめカンティーナ
ヴァルポリチェッラのカンティーナで試飲する際、シンプルなクラシコ、まろやかで奥深いリパッソ、個性的で主張の強いアマローネ、という流れでテイスティングするのがベーシックです。1つのカンティーナで製造されたクラシコ、リパッソ、アマローネ、3種類のワインを試飲するうちに、それぞれ全く違う味わいの中に、説明できないどこかに一貫性を感じたりして、「ぜんぜん似てない友だちの兄弟に初対面」したときのような気分。
この待ちに待ったテイスティングの日、前日までレストランでおいしいヴァルポリチェッラのワインに出会い続けたため、かなり期待していたのですが、宿泊していたホテルおすすめのカンティーナが超はずれ。「これがヴァルポリチェッラ?」「これがリパッシ?」「これがアマローネ???」という味と香り+「この品質で!?」のプライス。
生産者を前に、賛辞をさがすもどーしても見つからず、聞きに徹して口数少なくテイスティング。たっぷり説明してもらって、味見もして、何も買わないわけにもいかず、なんとか「これなら・・・」という味だったパッシートを一本だけかって退散。くり返しますが、どのアマローネでもおいしいわけではありません!
そして、2日前に飲んでおいしかったリパッシを作っているカンティーナ「コルテ・ボルゲッティ(Corte Borghetti)」へ!
クラシコは私にはシンプルすぎるので、ベーシックなブドウの味を確かめる程度にして、リパッソへ。リーズナブルな価格設定をするカンティーナも多い中、こちらのカンティーナはけっこうお高めですが、それに見合う香りの高さと上品な味で即決。アマローネも主張が強すぎず、アマローネ独特の木を焼いたような癖のある香りをほんのり感じる高貴な味。さすが!
ワインの品質もサービスも言うことなし、おススメカンティーナです。
名前 | Corte Borghetti(コルテ・ボルゲッティ) |
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住所 | Via Praele, 19 Loc, Prognol, 37020 Marano di Valpolicella |
TEL | +39 348 6099925 |
営業時間 | 10:00~18:00 |
おいしいアマローネが飲めるヴァルポリチェッラのレストラン
高級アマローネワインを贅沢に使ったアマローネのリゾットは、ヴァルポリチェッラの製造者にとっては「おいしいアマローネさえあればカンタン♪」な家庭料理だそうですが、「おいしいアマローネ」を手に入れることと、そのおいしいアマローネをどぼどぼと惜しみなく鍋にあけることこそむずかしいと思います。
ということで、家庭でいただくことははなからあきらめていましたが、ヴァルポリチェッラの有名どころのレストランならどこでも食べられる定番メニューだと思っていました。ところが、アマローネのリゾットを提供するレストランはヴァルポリチェッラでも少数。そんな稀少なリゾットが食べられるレストランはこちら!
名前 | Antica Trattoria da Bepi(ダ・ベーピ) |
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住所 | Via Valpolicella, 14, 37020 Marano di Valpolicella |
TEL | +39 045 775 5001 |
営業時間 | 12:00~15:00 19:00~24:00 |
定休日 | — |