本物のバルサミコ酢、ニセモノのバルサミコ酢

生ハムやパルメザンチーズで有名なパルマ、ボロネーゼが知られるボローニャなど、美食の文化が根付いているエミーリィア・ロマーナ州は、イタリアでもっとも働き者の州と言われています。フェラーリ、マセラティ、ランボルギーニなどの高級車もエミーリィア・ロマーナ州の特産物。「働き者」の性質が、果てしなく手間暇がかかる最高の食品と車を生み出したと言えるでしょう!

さて、そんなエミーリィア・ロマーナ州だからこその特産品のひとつが「バルサミコ酢」。日本ですこしずつ認知されつつある「モデナのバルサミコ酢」は、実はイタリア人にとってもすごく貴重で手が届きにくい食材でした。その理由は、膨大な人的労力と時間をかけて、ほんのすこしの量しか製造できないからです。

伝統的なバルサミコ酢 DOPの製造方法

まず原料は、モデナで収穫したバルサミコ酢に適した比較的あまい種類のブドウ、ランブルスコとトレッビーノのみ。この2種類のブドウを圧搾して加熱したもの(モストと言います)をオーク、桜、桑、栗など、素材とサイズが異なる10種類の樽にそれぞれ、3/4の量を充填します。

ちなみにバルサミコ酢の熟成には「暑くて寒い」環境が最適。夏は猛暑、冬は厳しい寒さの中、定期的に全ての樽の熟成具合、濃度をチェックして、大きい樽から、すぐ隣のすこし小さい樽へ、その小さい樽からそのすぐ隣のさらに小さい樽へ・・・と中身を少しずつ、移動させながら熟成を進めて、毎年ブドウの収穫時期には、新しいぶどうの「モスト」を一番大きな樽加えます。この作業を12年、または25年間も続けて、やっと伝統的なバルサミコ酢が完成するのです!

バルサミコ酢の原料となるランブルスコ。モデナの個性的なスパークリングワインにも

なぜわざわざ小さな樽に分けて熟成させるのかというと、樽のサイズが小さければ小さいほど「モスト」の熟成が進みやすいから。もしもワインのような大きい樽でバルサミコ酢を熟成させようとすると、完成までなんと100年以上かかると言われています。

12年、または25年で風味豊かで濃厚なバルサミコ酢を完成させるには、この膨大な「人的労力」が必須なのです。

ちなみにバルサミコ酢用の木樽はワインの樽バティックに似ていますが、ワインのものより素材の木に厚みがあり、樽の上部に窓が付いています。この「窓」は、呼吸が必要とされるバルサミコ酢に酸素を取り込んだり、熟成具合の確認、バルサミコ酢を隣の樽に移動させるときなど、バルサミコ酢の樽には絶対に必要。さらに樽の木の風味を生かすワインとは違って、木の風味がバルサミコ酢につかないように、あらかじめ木の樽からタンニンを抜くという、けっこう大変な処理がされています。

伝統的なバルサミコ酢の製造所は微妙にサイズが異なる樽がずらり

そういえば、モデナの家庭では、伝統的に子どもが生まれると、モストを仕込む風習があります。子どもを世話すると同時にバルサミコ酢にも手を焼き、子どもが成長するように、バルサミコ酢の熟成も進み、その子どもが一人前になる頃、25年もののバルサミコ酢も出来上がる・・・なんてステキな風習!

毎年、気候や天候によって同じ銘柄のワインの味が同じではないように、バルサミコ酢のために収穫されるブドウも毎年、微妙に異なります。「モデナのバルサミコ酢 DOP」の複雑で深みのある風味と味わいは、1本の瓶の中に、12年分、または25年分のブドウが凝縮されている、その年数分の季節を背負っているからなのです。

モデナのバルサミコ酢 IGPの誕生

モデナのバルサミコ酢は1000年以上の歴史がありながら、その希少さのせいでイタリア中にその存在が知られるようになったのは1900年ごろから。バルサミコ酢への注目度が急上昇しているのに、生産される量は需要に対して圧倒的に少ないので、バルサミコ酢はいつも「幻の食材」状態でした。貴重すぎて手に入らないという理由で、ついには「ニセモノのバルサミコ酢」が世界中に出回ることに・・・

そもそも、「バルサミコ(Balsamico)」はイタリア語で「心地いい」「マイルドな」という意味をもつ一般的な単語で、つまり「バルサミコ酢」とは、ざっくりと「マイルドな酢」という意味です。ということは、世界中のどこでも、誰でも、カラメルで色をつけたただの酢を「バルサミコ酢」と呼んで製造、販売することができるのです。

そこで、伝統的な製造方法に敬意を払い、製造コストを抑えながら、おいしいバルサミコ酢をつくる方法への模索が始まりました。モデナのバルサミコ酢の生産業者がそれぞれに研究を進め、1950年ごろになると「伝統的な製法のバルサミコ酢」とは別に、時間と手間を省いた一般消費用のバルサミコ酢の製法が確立されはじめて、「伝統的でないけれど、ニセモノでもないモデナのバルサミコ酢」が市場に並ぶようになりまりました。ただ、これらのバルサミコ酢は、各々の生産業者が、試行錯誤しながら生み出したオリジナルの製法で好きなようにつくっていたため、品質も味も「バラバラ」でした。

そんなとき、目指したのが「IGP」の獲得。IGPはイタリア語で「Indicazione Geografica Protetta」、ヨーロッパ各地の重要な特産物を保護するためにEUが定める規格です。モデナのバルサミコ酢生産者たちは「モデナのバルサミコ酢」という名前の商品がおいしかったり、おいしくなかったりすることは、モデナのバルサミコ酢全体にとってよくない!と考えたのです。

オーガニックのIGPはこちらの樽

移し替え不要、IGPの樽は大きい!

何年にもわたってモデナの生産者たちはMIPAAFとの研究を続け、ついに2009年、バルサミコ酢としての品質と独特の風味を保証しするための細かなルールが確定し、新しい製法のバルサミコ酢が「IGP」として認定されました。

こうしてモデナには、「本物のバルサミコ酢」が、DOPとIGPの2種類存在することになりました。

DOP IGP
原材料 ぶどうを搾取して煮詰めたもの(モスト)のみ モスト+10年以上熟成したワインビネガー
熟成期間 12年、または25年以上 60日以上醗酵させた後、基本3年未満
ブドウの品種 モデナで生産される2種類のブドウ(ランブルスコ、トレッビアーノ) 協会に認定された7種類のブドウ(ランブルスコ、サンジョベーゼ、トレッビアーノ、アルバーナ、アンチェッロッタ、フォルターナ、モントゥーノ)
容量 モデナバルサミコ酢協会仕様のガラス瓶100mL 250mL以上のガラス、木、陶器の容器
包装 モデナバルサミコ酢協会仕様の豪華紙箱入り 特に規定なし
保存料 ×使用しない ×使用しない

IGPの認定により、「モデナのバルサミコ酢」は安心して購入できる身近な食品になりました。

バルサミコ酢のおいしい食べ方

バルサミコ酢は「火を通さずに生で食べる」ことだけ気をつければ、いろんな食べ方ができます。

1. バルサミコ酢、オリーブオイル、塩を生野菜に
2. 肉料理にプラス
3. チーズにプラス
4. ヨーグルト、ジェラートにプラス
5. スプーンで一杯ゴクッと!

バルサミコ酢でグーンと美味しくなる生野菜!

モデナのDOC独特の風味をもつスパークリングロゼ

イタリアでもっともベーシックな食べ方は、やっぱりサラダ。良質なオリーブオイルとバルサミコ酢でシンプルに生野菜をバリバリ♪でも、うちの母は、豆腐にバルサミコ酢をかけて食べるのがお気に入り。意外と日本の食材にもマッチするんですよ〜

ちなみに、バルサミコ酢に使われるブドウ、ランブルスコは、ワインのブドウとしては一般的ではないけれど、モデナではビール感覚で気軽に飲むワインとして生産されています。スパークリングで爽やかで軽い味わいは、ちょっと重めのモデナの食事に合うとされています。

おいしいバルサミコ酢の条件は?

細かい製造工程のルールを守って、できあがったバルサミコ酢は、風味、色、酸味などのさらに厳しい品質試験にパスしなければ「モデナのバルサミコ酢DOP」または「モデナのバルサミコ酢IGP」になれません。

伝統的モデナのバルサミコ酢DOPにはこのマーク

モデナのバルサミコ酢IGPの証は、青と黄色のマーク

「本物」であるためには、まずはこのマークがあることが第一条件です。伝統的モデナのバルサミコ酢DOPの場合、品質は比較的統一されていますが、IGPは各生産者によって、または、商品のコンセプトに合わせて、品質に大きな開きがあります。

IGPは熟成期間が基本3年以内と短いながら、しっかり風味とこくのあるバルサミコ酢を作るために、「ブドウを加熱する」工程が大切になってきます。降水量や日照時間、気温などによって、毎年、変わるブドウの甘みや酸味をチェックして、おいしいバルサミコ酢に仕上がる「もっとも適した濃度」に煮詰めるときの微妙な調整は、経験がたよりの職人技です。

そして、6ヶ月〜3年、暑くて寒い製造所できっちり熟成させて、最後は、10年以上熟成させたワインビネガーを調合して完成。ただし、それぞれの生産者によって異なる3つの要素があります。

1.モストの煮詰め具合
2.モストの熟成期間
3.ワインビネガーの調合パーセント

「モデナのバルサミコ酢IGP」の原料は、モストと10年以上熟成させたワインビネガーと定められていますが、その配合率の幅は広く、モストは最低20%、ワインビネガーは10%以上配合すること、と定められています。つまり、ワインビネガーが80%の「モデナのバルサミコ酢IGP」も存在してしまうということ。さらに、「しっかり熟成させた感」を演出するカラメル色素も2%まで配合が許されています。

つまり、モデナのバルサミコ酢は、IGPに認定されていることに加えて、誠実な生産者の商品をえらぶこともとても大切です。

伝統的製法のDOPから、高品質のIGP、オーガニックのIGPまで、モデナで品質を保証された本物のモデナのバルサミコ酢をニーズに合わせて紹介します!安心の品質で、しかもヘルシーなバルサミコ酢、伝統的なDOPはもちろん、しっかりコクがある高品質なIGPのバリエーションも多く、フルーツと組み合わせた斬新な新商品も誕生しています。
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ABOUTこの記事をかいた人

イタリア在住バイヤー&ブロガーです。リグーリアの希少なワインやオリーブオイル、ジェノバっ子だけが知ってる穴場スポットなどを紹介します♪ちなみにイタリア語のブログのフォロワー5000人、ジェノバではCocoJapanとして結構有名人です!